介護保険改定の議論が始まる
介護保険制度は3年に1回見直されており、2027年度改正に向けた議論が社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会で本格化している。
今後、部会で詳細が検討され、2025年末までに結論が示される予定となっている。さらに、法改正が必要なものについては、2026年通常国会の関連法改正案に盛り込まれる見通しと言われている。
中でも、改定の焦点になるのが前回の2024年度改正で先送りされた3つの案件である。具体的には、(1)一定以上の所得水準の利用者に課している2割負担の対象者拡大、(2)全額が保険給付で賄われているケアマネジメントの有料化、(3)要介護1~2の給付見直しです。これらはこれまでも財務省から強く要望されていたが、現場をはじめ多くの反対の声で先送りとされてきた課題である。
第一の利用者の負担割合の問題である。利用者が介護保険を利用した際に支払う利用者負担は、現在多くの人は1割負担となっている。この現在1割負担の方の負担率を2割に引き上げようというもの。そうなると多くの利用者が現在の2倍の料金を支払うことになる。安い年金で何とか生活を維持している高齢者にとって介護保険利用料の負担の倍化は深刻な問題である。その結果サービス利用を断念したり、手控えたりすることになり、介護保険サービスの利用制限になりかねない。
二番目のケアマネジメントの有料化の問題である。現在ケアマネジャーに支払われる報酬は全額保険からとなっており、利用者負担はゼロである。これが毎月利用者に支払ってもらうことになり新たな利用者負担となる。ケアマネジャーは利用者にとって、介護保険のサービス利用における入口に立つ不可欠な案内人である。入口を有料化すると、低所得者を中心に利用控えが起きる危険性が想定される。
さらに、ケアマネジャーの仕事は毎月同じようなサービスを提供するわけではない。退院時や病状の変化、生活や介護者の変化があった時などは頻回な訪問でサービスの調整が必要となる。一方体調やサービスが安定しているときは毎月のモニタリングのための訪問のみで済むこともある。こうしたケアマネジャーの仕事はデイサービスや訪問介護といったサービスと大きく異なる。利用者にとって、この月はデイサービスに4回行ったから〇〇円になる。といったサービスは利用者にとってわかりやすいし納得感があるが、ケアマネジャーの働き方は利用者からみた場合、理解しにくいもの。「この月は1回しか来ていないのに」といった疑問を持たれることになりはしないか。また、ケアマネジャーの仕事の範囲が不明確で、シャドーワークと言われている仕事がある中で、有料化により現場では一層の混乱が生じるのではないか。有料化は利用者とケアマネジャーの間に新たな矛盾を作り出すことになることが危惧される。
三番目に、要介護1、2の高齢者への訪問介護と通所介護、特にホームヘルパーの生活援助について、市町村がそれぞれ運営する総合事業に移すことが提案されている。
現在、要支援の利用者は総合事業のサービスと決められている。そこでは訪問介護、通所介護ともに回数制限があり、最低限の回数しか利用できないことになっている。さらに要介護1・2の利用者が総合事業の対象とされてしまうと、これまでのように限度額内であれば自由に利用できていたものができなくなり、訪問介護、通所介護の利用が大幅に制限されることになる。
また、ホームヘルパーの生活援助の軽度者への重要性を示した沖藤紀子の下記の文章を紹介する。
「介護は、暮らしの保障から始まる。弱まりはあるかもしれないけれど、少しの支えがあれば自分で生活を営むことができ、多くの医療費を使わない高齢者を作っていく、それこそが介護保険の本丸だと思うからである。生活の崩壊を防ぐことがまず第一、『急がば回れ』である。介護保険は財源問題と絡んで、サービス給付の内容についてさまざまな議論がある。とくに生活援助の給付制限論には、わが家においてどのように老いが始まるのか、どのような困難を抱えているのか、十分な議論が欠けているように思う。」※
要介護1・2の人を軽度者と呼ぶなら、これらの高齢者の生活援助は介護保険法の自立支援という基本理念からもっと大切にされなければならないサービスであると考える。
これらの問題がこれから年末にかけて検討されていくことになる。いずれにしても財務省が主張するような改定が行われるなら、要介護高齢者にとって大幅な負担増とサービス利用の制限につながることは必至となり、「介護保険の持続可能性の確保」のために新たな介護難民と高齢者に厄災をもたらすことになる。
※(『それでも我が家から逝きたい』沖藤典子著 岩波書店)