CADLとは
最近「CADLと『らしさ』」~本人支援の新しい視座~※1という書籍を手に取ることができた。CADLとは「Cultural Activities of Daily living」の略で「文化的日常生活動作・行為」という意味だそうである。
同書の定義によれば「ICFモデルで十分に包摂されなかった主観的領域(個人因子)と集団・社会における役割り・貢献領域(環境因子)における幸福感(充足感)の体系化を目指しているものがまさにCADL理論なのです。」さらにそれは「本人らしさ(自分らしさ)の尊重と擁護と主観的幸福感の実現を目指す。」ものと説明されている。ここで言われる「主観的幸福感は、他者の評価や客観的な基準で測られるものではなく、本人が「幸せである」と感じる状態を指します。」とも述べられている。
本書にみられるCADLの定義はやや難解な点もあるが、「人が生きる」ということを生命・生活・人生三つのレベルで、さらに関連因子も含めて総合的にとらえようとするものとされてきたICFでもふれられなかった、人間の心を対象に取り込もうというところにこの理論の新しさがあるようだ。
これまでのケアマネジメントの中では、歩行ができるか、入浴ができるかといったADLや掃除や調理、買い物等の生活が維持できるかどうかといった生活領域の課題、それに医療的なケアの必要性、リスク管理、参加といったところに目線を置いてアセスメントを行い、ケアプランを作成してきた。もちろん利用者のQOLを高める支援、ケアプランが必要であるという認識はあったものの、そこでは必ずしも利用者の「主観的幸福感=自分らしさ」といった領域への十分な目配りはされてこなかった。そうした領域のアセスメントも極めて不十分だったと言える。その点でCADLが示すものはケアマネジメントにとって極めて重要な示唆を与えるものである。
しかし、「主観的幸福感=自分らしさ」といったものはそれこそ主観的なものであり、庭に咲く一輪の花を見て幸せを感じる人もいれば、たまに訪れる孫との交流を楽しみにしている人もいる。そしてそれは相対的で、うつろいやすくはかないものであるかもしれない。ADLのように客観的に測定可能、評価できるものでもない。援助職がどこまでそこに迫れるかは大変難しいといえる。ケアマネジメントは必要な技術を伴うものであり、そうした技術が用意されなければこの領域の問題を扱うことは困難となる。
同書ではこの問題に応えるためアセスメントの考え方、手法を示している。その一つが「やる気スイッチ」と言われている。「『やる気スイッチ』は『自己実現の欲求』を引き出し、本人を内発的に動機(意欲)づける概念として位置付けています。」と述べられている。そしてさらにこの「やる気スイッチ」を見つけ出すために「意欲・動機づけシート」が提示されている。
このCADL理論の有効性は今後のケアマネジメント実践の中で試されていくことになるであろうが、今の段階で言えることは大変興味深くチャレンジに値する理論であることには間違いないようである。
※1「CADLと『らしさ』」~本人支援の新しい視座~ 著者CADL普及推進委員会(高室成幸
奥田亜由子 綿貫哲)環境新聞社