「安心して、家に帰りましょう」と言えないケアマネ
これまでも多くの高齢者の退院に際し、ご相談いただき立ち会わせていただいた。多くの高齢者は「家に帰りたい」と強い思いを述べられる。同時にご本人や家族は、家に帰ってやっていけるか不安を抱えている。そんな時ケアマネジャーはこれまで「大丈夫です。介護保険を利用して家で十分やっていけます」と本人や家族の背中を押すことができていた。ところが今や「大丈夫です…」とは言えなくなっている。それはヘルパーさんがいないから。
もし退院して、毎日ヘルパーさんに来てもらわなければならないことが想定された場合、今やどこを見ても毎日ヘルパーさんを派遣してもらえそうなヘルパー事業所は見当たらない。その利用者の住む地域によっては、ヘルパーさんの派遣が期待できない地域もある。もちろん介護保険サービスはヘルパーさんだけではない。しかし、ヘルパーさんによる訪問介護は要介護状態となって在宅生活を送るうえでなくてはならないサービスであることは間違いない。その結果、高齢者本人の思いとは別に、施設入所という選択を行うことにならざるを得ない。
国は地域包括ケアの推進という。「『地域包括ケアシステム』とは、地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まいおよび自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」を目指すとしている。今日の現状は、この目標から大きく後退していると言っても過言ではない。今や「地域包括ケアシステムの構築」は空念仏に堕しているのが現場の実感である。医療・介護の連携の推進、介護現場の生産性の向上、介護予防の充実、住民やボランティアによる助け合い等々、国はいろんな施策を提起している。しかし肝心なヘルパーさんをはじめ必要な介護人材の確保の裏付けなくして、これらの施策を並べても、それは空しいばかりである。
これは単に現場の一ケアマネジャーの認識にとどまらない深刻さがある。共同通信社が今年6・7月に全国の都道府県知事と市区町村長に実施したアンケートで、介護保険サービスの提供体制の持続に危機感を抱く首長が97%に上った。理由は、現場の人手不足や費用の膨張が目立ったと伝えている。ちなみに、熊野市の回答からも確認することができる。
地域包括ケアシステムに関する質問に対し「あまり構築できていない」。その理由として「介護や医療の従事者ら支え手が不足している」と回答している。